大阪地方裁判所 平成9年(ワ)11394号 判決 1998年6月24日
原告
桃崎漾江
ほか二名
被告
小林知記
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告桃崎漾江に対し、金五三六〇万八二〇九円及びうち金四九六〇万八二〇九円に対する平成八年八月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告桃崎信子に対し、金二六〇五万四一〇四円及びうち金二四〇五万四一〇四円に対する平成八年八月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告桃崎幸子に対し、金二六〇五万四一〇四円及びうち金二四〇五万四一〇四円に対する平成八年八月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1(原告ら)
原告桃崎漾江(以下「原告漾江」という。)は、亡桃崎和弘(以下「亡和弘」という。)の妻であり、原告桃崎信子(以下「原告信子」という。)は、亡和弘の長女であり、原告桃崎幸子(以下「原告幸子」という。)は、亡和弘の二女である。
2(本件事故)
(一) 日時 平成八年八月一六日午前〇時二五分ころ
(二) 場所 山口県熊毛郡平生町大字宇佐木三五〇番地の一先路上(国道一八八号線)
(三) 加害車両 被告運転の軽四輪貨物自動車
(四) 態様 亡和弘が、前記場所の横断歩道を南から北に向かって徒歩で横断中、同国道を光市方面から柳井市方面に向かって走行していた加害車両に衝突され、平成八年八月一六日午前二時五三分ころ、収容先の病院で出血性ショックにより死亡した。
3(責任)
本件事故は、被告が制限速度時速五〇キロメートルのところを、時速六〇キロメートルの速度で加害車両を運転し、かつ、前方を十分注視していなかったために、亡和弘を発見するのが遅れ、直近になって初めて亡和弘を認めてハンドルを切ったが間に合わず、亡和弘を跳ね飛ばしたことによって発生したものであるから、被告は民法七〇九条に基づき、本件事故による損害を賠償する責任がある。
4(損害)
(一) 亡和弘の損害
(1) 逸失利益(取締役報酬)
<1> 亡和弘は、死亡当時、東京・大阪証券取引所第一部に株式が上場されているナショナル住宅産業株式会社(以下「ナショナル住宅」という。)の取締役(常勤)の地位にあった。
<2> 亡和弘の死亡当時の年収は、二三〇五万円であった。
亡和弘の死亡当時の年齢は、五八歳であった。
<3> ナショナル住宅の取締役の場合、通常六三歳までは取締役の地位にとどまるものと考えられ、その後は六七歳までは同社の関連会社の役員に就任するのが通例であって、同社の取締役の五〇パーセントを下らない報酬を受け取ることができる。
<4> したがって、亡和弘の逸失利益は、次のとおり、九三九二万五八六八円である。
なお、亡和弘は、妻である原告漾江と子二人(原告信子、原告幸子)の四人家族であり、その支柱であったもので、子二人はいずれも女性であり、会社勤めはしているものの、その生活は基本的には亡和弘が支えていたから、生活費控除率は三〇パーセントが相当である。
(ア) 五八歳から六三歳まで 七〇四一万七九八〇円
2305万円×(1-0.3)×4.3643=7041万7980円
(イ) 六三歳から六七歳まで 二三五〇万七八八八円
2305万円×1/2×(1-0.3)×2.9139=2350万7888円
(ウ) 以上合計九三九二万五八六八円
(2) 退職金の差額
<1> ナショナル住宅には、取締役退職慰労金制度があり、常勤・非常勤の別及び取締役の役位によって支給率が異なる。
亡和弘の場合、六〇歳で常務取締役に就任し、役員退任時には少なくとも常勤の常務取締役の地位にとどまるものと考えられ、その場合は、次の計算式の(a)と(b)を合計したものによって退職慰労金を支給されることとなる。
(a) 取締役の地位喪失時の報酬月額×一・五×在任期間
(b) 常務取締役の地位喪失時の報酬月額×二・〇×在任期間
なお、亡和弘の死亡時の報酬月額は一一一万円であるので、常務取締役を退任するときには、それを下回ることは考えられない。
<2> ナショナル住宅には、更に、特別退職慰労金制度があり、退職慰労金の二〇パーセント以内の金額の支給を受けることになっている。
<3> ところが、亡和弘は、平成五年にナショナル住宅の取締役に就任したが、在任三年で死亡した。
その結果、亡和弘に支給された退職慰労金は五三〇万円、特別退職慰労金は七〇万円であった。
<4> 以上によって、次のとおり、六二九万〇五五〇円の差額が生じることになった(逸失利益の一種として生活費割合も控除した。)。
(ア) 平成一三年に退職するものとして受け取るべき退職金
(退職金)
(a) 111万円×1.5×5=832万5000円
(b) 111万円×2×3=666万円
以上合計一四九八万五〇〇〇円
(特別退職金)
1498万5000円×0.2=299万7000円
以上合計一七九八万二〇〇〇円
(イ) 現実の受領額 六〇〇万円
(ウ) 差額 一一九八万二〇〇〇円
(エ) 逸失額計算 1198万2000円×(1-0.05×5)×(1-0.3)=629万0550円
(本件事故時の平成八年から退職時の平成一三年までの五年間の中間利息〔年五パーセント〕を控除)
(3) 慰謝料
亡和弘は、妻と二人の子どもの家庭の支柱であり、その死亡による慰謝料は、二六〇〇万円を下らない。
(4) 以上を合計すると亡和弘の損害は、一億二六二一万六四一八円となる。
(二) 原告らの損害
(1) 葬祭費
原告漾江が夫である亡和弘の葬祭費として支出した額は、一五〇万円を下らない(亡和弘の職業、地位から考えて、通常の場合に比較して多くの費用を必要とすることは明らかである。実際には約七五〇万円を要した。)。
(2) 弁護士費用
原告らは、弁護士に委任しなければ本件訴訟を追行することができず、そのためには、弁護士会所定の着手金、報酬を支払う必要がある。
その額は、原告らの被った損害額から考えて、原告漾江については四〇〇万円、原告信子、原告幸子についてはそれぞれ二〇〇万円を下らない。
5(原告各自の請求損害額)
(一) 前記亡和弘の損害額一億二六二一万六四一八円から自賠責保険金三〇〇〇万円を控除すると九六二一万六四一八円となる。
(二) 右を亡和弘の死亡により、原告漾江が二分の一、原告信子、原告幸子が各四分の一の割合で相続した。
原告漾江 四八一〇万八二〇九円
原告信子 二四〇五万四一〇四円
原告幸子 二四〇五万四一〇四円
(三) 葬祭費 一五〇万円(原告漾江)
(四) 弁護士費用
原告漾江 四〇〇万円
原告信子 二〇〇万円
原告幸子 二〇〇万円
よって、原告らは被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、原告漾江は金五三六〇万八二〇九円、原告信子及び原告幸子は各金二六〇五万四一〇四円並びに右各金員から弁護士費用を除いた残額に対する本件事故の日の翌日である平成八年八月一七日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし3は認める。
2 同4(一)(1)<1>、<2>は認め、<3>、<4>は知らないないし争う。
取締役報酬について
(一) 生活費控除率は、最低四〇パーセントが妥当である。
亡和弘の被扶養者は妻一人だけであること、亡和弘は高額所得者で、ゴルフにも毎土曜日に行けるほどの生活を営んでいることからも、収入に占める生活費の割合は、通常の三〇パーセント以上の高率であると考えられるからである。
(二) 取締役は、任期が原則二年で、必ず二年毎に株主総会で再任されると決まっているものでもないので、原告の将来の予想、展望にどれだけの蓋然性が認められるものか疑問であるが、一応六三歳まで今後五年間は再任され続けることを争わないとしても、その後のことは六三歳という年齢から考えても、もっと不確実なことである。
せいぜい、賃金センサス(平成七年度)の六〇から六四歳の年収四六四万八九〇〇円を基礎とすべきである。
同4(一)(2)のうち、ナショナル住宅に取締役退職慰労金制度のあることなどは争わないが、六〇歳で常務取締役に就任するとか、役員退任時には少なくとも常勤の地位にとどまっているものと考えられるということは争う。
退職金差額について
(一) 亡和弘が六〇歳で常務取締役に就任する、役員退任時には少なくとも常勤の地位にとどまっているというのは、原告らの希望的推量と変わるところはない。
(二) 退職金については、内規に規範性は薄く、株主総会や取締役会の専権事項であることを看過したもので、原告らの希望的観測にすぎず、損害として、その適格性を認めることはできない。
同4(一)(3)は争う。
亡和弘の被扶養者は一人であり、子らは独立している。
慰謝料額としては、二二〇〇万円が相当である。
同4(二)は争う。
三 抗弁
1(過失相殺)
(一) 本件事故現場は、信号機により交通整理の行われている交差点であり、亡和弘は信号機の赤色表示を無視ないし見落として横断を開始した(被告の他面信号機は青色表示であった。)。
右和弘の過失は重大であり、七割の過失相殺をすべきである。
(二) 被告には、一〇キロメートルの制限速度超過があるが、一方、亡和弘は、血液一ミリリットル中に二・〇一ミリグラムのエチルアルコールが検出されており、これは、麻痺期及び強度酩酊の状態を示す数値で、運動失調が著しく、歩行困難の状態であるとされている。
亡和弘は、自分で自分の身を守るという基本的原則を失念したものと思われ、この過失は大きく、原則どおり過失割合は、七〇対三〇が相当である。
2(損害填補)
自賠責保険金三〇〇〇万円
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1は争う。
(一) 被告が青信号を、亡和弘が赤信号をそれぞれ進行したことについては、右の状況を目撃した第三者は見当たらず、結局のところ、被告の供述以外にこれを裏付ける証拠はない。
被告は、自己の罪責を免れようとする心理が強く働くことは避けられず、その供述が客観的事実に合致しているとの保証はない。
したがって、刑事事件としては加害者の主張を覆すだけの証拠がない以上、右のような認定になることはやむを得ないが、民事的には承服し難いものがある。
(二) 本件事故における被告の前方不注視は明らかであるが、亡和弘はあと少しのところで横断歩道を渡ってしまうところで、被告に衝突されており、被告の前方不注視の程度は甚だしいものである。
(三) 本件事故現場は、最高速度を時速五〇キロメートルと制限されているが、被告によれば、時速六〇キロメートルの速度で走行したというのであるから、制限速度違反があった。
2 同2は認める。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1(原告ら)、2(本件事故)、3(責任)は、当事者間に争いがない。
二 請求原因4(損害)について
1 逸失利益(取締役報酬等) 六八四七万一六一五円
(一) 亡和弘が、死亡当時、ナショナル住宅の取締役(常勤)、製造統括部長の地位にあり、その年収が二三〇五万円で、年齢が五八歳であったことは、当事者間に争いがなく、前記争いのない請求原因1(原告ら)に証拠(甲三、四の12、二三、原告漾江本人)を総合すると、亡和弘は妻である原告漾江と子である原告信子(昭和四四年七月二〇日生)及び原告幸子(昭和四七年一〇月二四日生)と同居して生活していたもので、原告信子及び原告幸子は就職していることが認められる。
また、弁論の全趣旨によれば、亡和弘は、六三歳までの五年間、死亡当時の取締役(常勤)の地位に再任され続けるものとの蓋然性を認めることができる。
したがって、亡和弘の取締役報酬に関する逸失利益の死亡時の現価をホフマン式計算法により計算すると、次の計算式のとおり六〇三五万八二六九円となる(前記認定の亡和弘の生活状況からすると、生活費控除率は四〇パーセントとするのが相当である。)。
2305万円×(1-0.4)×4.3643=6035万8269円
(二) 亡和弘は、六七歳まで就労可能であると考えられるところではあるが、前記六三歳で取締役を退任した後に本件事故当時の年収の五〇パーセントを下らない年収を取得することの蓋然性までは認めることができないから、右四年間については、賃金センサス平成八年第一巻一表による企業規模計・産業計・男子労働者・学歴計六〇ないし六四歳の年収四六四万〇六〇〇円を基礎として逸失利益の原価を計算すると、次の計算式のとおり八一一万三三四六円(一円未満切り捨て。)となる。
464万0600円×(1-0.4)×(7.2782-4.3643)≒811万3346円
(三) 以上を合計すると、亡和弘の逸失利益は、六八四七万一六一五円となる。
2 逸失利益(退職金差額)
(一) ナショナル住宅には取締役退職慰労金制度があることは、当事者間に争いがないところ、証拠(甲八)によれば、ナショナル住宅には右についての次の条項の取締役退職慰労金内規が存することが認められる。
第二条(退職慰労金の種類)
取締役退職慰労金は次の二種類とし、その支給は第三条の定めるところに従うものとする。
(1) 退職慰労金
(2) 特別退職慰労金
在任中に死亡した取締役に対しては、退職慰労金及び特別退職慰労金はそれぞれ弔慰金及び特別弔慰金の名称をもって支給するものとする。
第三条(支給基準)
取締役退職慰労金は次の基準により算出された金額の範囲内をもって支給するものとする。
(1) 退職慰労金
取締役の地位喪失時までに就任した各役位別に、次により算出された金額の合計額とする。
(常務取締役)
取締役の地位喪失時の報酬月額×役位別退職慰労金支給率(別表1)×役位別在任期間
(2) 特別退職慰労金
取締役在任中の功労に対し前号の退職慰労金に加えて支給できものとし、その金額は別表1に定めるところに従い算出されたものとする。
(別表1)常勤取締役の役位別退職慰労金規準額・役位別特別退職慰労金支給率表
(退職慰労金支給率)
取締役 一・五か月以内(在任期間一年につき)
(特別退職慰労金支給率)
退職慰労金支給率によって算出される退職慰労金の二〇パーセント以内
(二) 証拠(甲九)によれば、亡和弘の死亡による取締役の地位喪失に対し、ナショナル住宅は、弔慰金(退職慰労金相当)五三〇万円、特別弔慰金(特別退職慰労金相当)七〇万円の合計六〇〇万円を支給したことが認められる。
(三) 証拠(調査嘱託の結果〔これを書証としたものが甲一〇である。〕)によれば、亡和弘は、平成五年六月二九日、ナショナル住宅の取締役に就任したことが認められるから、死亡時、取締役在任三年一か月余ということになる。
(四) 亡和弘が六〇歳で常務取締役に就任することの蓋然性を認めることはできず、また、前記ナショナル住宅の取締役退職慰労金内規の規定からして、右による基準は退職慰労金及び特別退職慰労金の額の上限を定めたものにすぎず、右の額の給付が必ずなされるものとは言えず(現に、亡和弘の死亡により支給された右相当額である弔慰金等は原告主張の計算式の額より少なく、また、特別弔慰金は弔慰金の約一三パーセントである。)、また、事柄の性質上、六三歳までは亡和弘が常勤の取締役を継続するとしても、退職時の慰労金の額を算定することは到底できないから、退職金の差額についての原告の主張は採用することができない。
3 慰謝料 二六〇〇万円
本件に現われた諸般の事情を考慮すると、亡和弘の死亡による慰謝料は、二六〇〇万円とするのが相当である。
4 葬祭費 一二〇万円
本件事故と相当因果関係のある亡和弘の葬祭費は、一二〇万円とするのが相当である。
5 以上を合計すると、損害合計は、九五六七万一六一五円となる。
三 抗弁1(過失相殺)
前記争いのない請求原因1(本件事故)及び2(責任)に証拠(甲四の1、4、5、9、10、12、14、15)を総合すると、次の事実が認められる。
1 本件事故現場は、国道一八八号線(片側一車線〔幅員三・三メートル〕)とその南側に県道大野南長迫線が交わる信号機により交通整理の行われている三差路交差点であり、同交差点の北側には畦道(交差点入り口付近の幅員は二・五メートルあり、アスファルト舗装されているが、次第に細くなり、四輪自動車の通行はできない。)が交差しており、同国道には南北に横断する幅四・〇メートルの横断歩道が設置され、同国道は最高速度を時速五〇キロメートルと規制されている(本件事故現場の状況は、別紙図面記載のとおりである。以下、地点を示す場合は同図面による。)。
本件事故現場付近は、民家等が点在し、国道南側に道路に並行して小川があるほかは、水田が広がる農村地帯である。
2 本件事故現場に設置されている信号機は、半感応式(従道路側に感知器又は押ボタンが設置され、車両等を感知した場合に従道路の信号が青に変わるもの)であり、車両感知器は県道側の停止線の隣に設置され、歩行者用押ボタンは、同車両感知器の支柱のほか、国道横断用の横断歩道両側に立てられた信号機の支柱にそれぞれ設置されている。
信号機の表示は、通常時は、国道側が青色、県道側が赤色を表示しており、本件事故時においては、県道側が感知状態となってから、国道車両用信号機が四三秒間青色表示の後三秒間黄色を表示してから赤色表示となり三四秒間赤色表示の後青色表示となる周期であり、この間横断歩道の歩行者用信号機は、県道側が感知状態となってから五〇秒間赤色表示の後(最後の四秒間が全赤状態)一三秒間青色表示となり、七秒間の青色点滅表示の後赤色表示となる、というものであった。
3 本件事故現場付近は、本件事故当時、本件の横断歩道の東側方向に水銀灯が設置されていたが点灯されておらず、他に照明設備はなく、月明かりもない状態で暗かったが、加害車両の進路前方の見通しを妨げるものはなかった。
4 被告は、加害車両を運転して、本件事故現場の国道を西から東へ向かい制限速度時速五〇キロメートルを一〇キロメートル超える時速約六〇キロメートルで走行し、本件交差点の手前約八四メートルの地点で対面信号機が青色表示であることを確認し、そのまま進行していたところ、本件事故現場の横断歩道を南から北へ(被告の進行方向右から左へ)横断している亡和弘を八・五メートル手前で発見し(加害車両の位置は<2>地点、亡和弘の位置は<ア>地点)、危険を感じハンドルを右に切ったが、間に合わず加害車両の左前部を亡和弘の左側部に衝突させた(<×>地点)(被告は、右衝突の時点でブレーキを掛け、そこから五八・四メートル先で停止した。)。
本件事故時点における車両用の信号機の表示は青色表示であり、横断歩道の歩行者用信号機の表示は赤色であった。
5 亡和弘は、平成八年八月一四日、妻である原告漾江とともに郷里の山口県熊毛郡平生町に帰省し、同月一五日早朝墓参りをし、午前一一時ころから同県柳井市で姪の結婚披露を兼ねた食事会に出席し、午後二時ころ一旦滞在先である平生町の原告漾江の妹宅に戻り、一休みして、午後四時ころから夫婦で柳井市にある原告漾江の実家の墓参りに行き、その後、亡和弘は、一人で、高校時代の同級生と柳井市街の飲食店で飲食をするために、午後六時四〇分ころ、原告漾江と別れた。
本件事故発生日時は、日の変わった平成八年八月一六日午前〇時二五分ころであり、発生場所は平生町ではあるが、滞在先である原告漾江の妹宅とは遠距離であり、何故、亡和弘が同場所を横断していたかについては明確に分からないが、原告漾江は、昔の友人の家を尋ねていこうとしていたのかもしれないと考えている。
亡和弘は、本件事故当時、血液一ミリリットル中に二・〇一ミリグラムのエチルアルコールを保有していた。
6 亡和弘は、本件事故現場の横断歩道を南から北へ対面の歩行者用信号機の赤色表示に従わず横断を開始し、加害車両と衝突した。
以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、本件事故の発生については、被告の制限速度超過及び前方不注視の過失が寄与していることがもちろんであるが、その大半は亡和弘の赤信号無視あるいは見落としにあることは明らかであるから、本件においては前記損害額からその七割を過失相殺するのが相当である。
すると、被告が賠償すべき総損害額は二八七〇万一四八四円(一円未満切り捨て。)となる。
四 原告らは自賠責保険金三〇〇〇万円の支払を受けていること(抗弁2)は当事者間に争いがないから、亡和弘死亡による損害は既に填補済みということになる。
五 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉波佳希)
別紙図面